絵画に観る死。
『怖い絵展』
一度は見聞きされた事があるのではないでしょうか。
今、上野の森美術館で好評を得ている絵画展です。
「恐怖」に焦点を当てた選りすぐりの絵画が約80点も観れるという事で、私も前々から興味があり、しかも来月で終了!ということを知り駆け込みで行ってきました。
人気があり入場制限があるため早朝から長い列ができ、私と夫は上野の紅葉を眺めながらたわいのない話をして待つ事80分。
しかし中に入ると、そこからは待たされた事など気にならない程の魅力的な絵の数々に時間を忘れて見入っていました。
10年前に「怖い絵」という単行本が発行されました。
作家・ドイツ文学者の中野京子さんが書かれた本で、絵画の面白さを伝えるためにシリーズ化、それがベストセラーを記録し多方面から大きな反響を呼びました。
今年、刊行10周年を迎え、それを記念して今回のとても大きな絵画展に繋がったそうです。
中野さんは、絵を見る時にその絵の時代背景や隠された物語などを知った上で絵を観ることを勧めています。
その知識があることで、よりその絵の持つ壮大なストーリを読み解く事が出来ると、個人の感性だけでなくきちんとした情報も必要であると伝えています。
施設内にもその思いが反映されてか、展示された絵の横には一点一点丁寧な説明書きがあり観る人への心遣いと配慮を感じ、絵画の知識のあまりない私にとっては、より絵に興味を持って観るきっかけを作って下さいました。
そして、音声ガイドの声を担当している女優・吉田羊さん。
私の好きな女優さんのお一人です。
落ち着いた声で、一つ一つの絵に合わせた説明も絵の臨場感をしっかりと伝えてくれていました。
『想像によって恐怖が生まれ、恐怖によって想像が羽ばたく』
これは音声ガイドのオープニングに流れてきて、私の耳に残った言葉です。
この言葉通り、私は一つ一つの絵から想像を掻き立てられ、それぞれの絵に異なる感情を持ちながら食い入るように鑑賞していました。
全てに共通していたのは、死を観て生を感じるでした。
中でも私の印象に残ったのは、人間の肉体という存在の凄さ。
人間の血の通う肉体から伝わる美しさや躍動感が生や命の象徴であり、絵に描かれたそれらの表情が死や死を迎える逃げ場のない現実を引き立て、その対比がより一層怖さを強めているように感じました。
そして最後に私たちを迎えた巨大な絵画。
パンフレットのテーマの絵ともなっている『レディ・ジェーン・グレイの処刑/ポール・ドラローシュ』には息を飲みました。
縦2.5メートル、横3メートルにもおよぶ絵自体の大きさにも驚きましたが、その解説にもあった、まるで舞台のひと場面を目の前で観せられているような迫力と鬼気迫る感じに一気に引き込まれました。
この絵は、ヘンリー8世の姪の娘として生まれたばかりに政争に巻き込まれ、望みもしない王冠を被された挙句、僅か16歳で処刑となる運命を背負った少女の絵です。
異名は「9日間の女王」。
目隠しをされ首置き台を手探りする幼さが残る少女の、運命を受け入れ覚悟を決めたその姿に、なんとも言えない気持ちが生まれ、しばらくその絵の前から離れられませんでした。
「怖い絵展」という名の通り、そこには生が侵される恐怖を感じるのと同時に、その死の意味、物語が持つ歴史を知れば知るほどもっと他の作品も観てみたいと、絵画への興味にも自然と繋がる展覧会だったと思います。
12月17日まで毎日開催させれているとのこと。
是非この展覧会を沢山の方に観て欲しいなと思いました。